「英語の聞き流しは全く無意味」ってホント?

結論からいうと、そんなことはない、といえます。

 

確かに、英語をシャワーのように浴びるとか、いつも英語を聞いていても、それだけでは英語の会話力がつくとはいえません。

それには全く異論はありません。

ただ、英語のCDやDVDを幼少期に聞かせても、英語習得に「効果が全くない」という意見があります。

これは本当でしょうか。

 

赤ちゃんは言葉をどのように学んでいくのか

 

乳幼児の脳が、母語と外国語をどのように認識しているのかについての研究では、ワシントン大学のPatricia Kuhl教授が世界的に有名です。

この研究成果は、こちらの講演会のビデオで10分程度に見事にまとめられています。

日本語字幕もついていますし、とてもきれいな洗練された英語のプレゼンです。

以前に日本のテレビでも紹介されたようです。

 

特に有名な研究に、英語を話す家庭、つまり英語以外の言語を聞いたことのない乳幼児に、一定期間、中国語(北京語)を話す人が直接話しかけるグループ、テープを聞かせるグループ、ビデオを見せるグループに分け、比較したものがあります。

人が中国語を話しかけたグループの乳幼児の脳には、外国語を言語として認識する働きがみられるようになったが、それ以外では残念ながら脳の変化はなかった、というものです。

この研究結果をもとに、だから、乳幼児に外国語のCDやDVDを聞かせても全く無意味である、ということがいわれていると思われます。

確かに、乳幼児の脳が、人間の話す言葉は意味のある音として、母語も外国語も同じように聞き分けようとしようとして発達していく、ということが分かる画期的な研究結果です。

しかし、それで、幼少期に外国語をCDやDVDで習うことが全く無意味、と結論するのはちょっと飛躍があります。

 

上のビデオでPatricia Kuhl教授が話しているように、脳科学の観点からは、外国語学習は7歳から10歳ぐらいまでに始めるのが一番効率的である、ということです。

よく外国語学習の「臨界期」という言葉を聞きます。外国語を学ぶのに最も効果的である年齢の限界を示す言葉ですが、これについて彼女は「7歳ぐらい」と明言しています。

これについて異論のある科学者はいない、と言い切っています。

 

しかし、これは、外国語学習の研究者の間では、長年意見の分かれるトピックでもありました。

実際、9歳ごろから第二外国語を学んだ方がバランスの取れたバイリンガルになる、という研究結果もあるのです。

つまり、7歳過ぎてから開始するのでは外国語習得は遅すぎて無理、ということではありません。

ですが、外国語学習は早い方が脳科学的にみて有利である、というのは世界の常識になりつつあります。

 

そして、Kuhl教授の研究結果から分かるのは、人とのやりとりがあることが言語学習には一番効果があるということです。

こちらのブログにも書かれていますが、

「人間は生まれた瞬間から他者との関わりを求める存在」

であり、

これは恐らく親などの重要な他者のケア無しでは生きていけない状態で生まれてくる人間にとって他者の存在は不可欠であるがゆえに、その他者を求める傾向を本能的に有して生まれて来る」

 

からかもしれません。「他者との関係促進の『手段』」として学習されるのが言語であり、そのために人との接触だけが学習に効果があるということではないか、ということです。

 

 他者との関わりと言語学習

 

では、この親、特に母親と子どもの密接な信頼関係の生活の中で、CDやDVDを利用して外国語が紹介され、それが子どもにとって、親という人との大事な、楽しい時間となったらどうでしょうか。

全く外国語学習に効果がないでしょうか。

 

ここで注意すべきは、外国語でも母語でも、CDやDVDを「ベビーシッター」にして、親による話しかけの時間が減少すれば、子どもの言語発達に良い影響は全くない、という点です。

そのような利用の仕方ではなく、親も子どももそのCDやDVDを学習手段として利用し、かつ親子の楽しい時間を作り出している場合には、効果があることを示唆する研究結果もあります。

 

いずれにしても、研究の成果というのは、かなり限定された条件の中で出されるものであり、その意味するところは人の判断に任される部分も大きいものです。

Kuhl教授の研究にしても、赤ん坊の脳は意味のある刺激に対して盛んに反応している、という部分だけが注目されれば、早期教育の過熱を招く危険が心配されるかもしれません。

 

それでも、この研究結果は、ただCDやDVDだけに育児や外国語早期教育を任せることが無意味かつむしろ危険でさえあるとはいっているけれども、親子で楽しみながら、母語と外国語の両方に幼少期から親しんでいくことに何ら異を唱えるものではない、という解釈は十分妥当ではないかと思います。

これは、脳科学の見地からも、外国語を聞いて発音を真似ながら学習していきやすいのは、10歳前だろうということも何ら矛盾しない解釈です。

 

実際、この研究結果が広く知られるようになるずっと前から、DVDなどで楽しく英語を学習し、発音がネイティブ並みに上達したという子どもの話はよく聞きます。

このように解釈しなければ、このような事例とこの研究結果が矛盾することになります。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です