バイリンガル児が日本語を話さなくなる理由とは? 【継承日本語】

バイリンガル子育ての難しさ

バイリンガル子育ては、決して簡単ではありません。

子育て中はただでさえ大変ですから、

それに加えてバイリンガルの環境を整えてやろうというのは、やはりそれなりに大変なもの。

何よりも、母親一人の決断ではかなり険しい道となってしまいます。
パートナーが日本語を話すのか、日本人なのか、外国語話者なのかといった違いによって状況も変わってきます。

その上でどの程度のバイリンガルに育てたいのか、それは家族にとってどのぐらい重要なのか。

そういうことを話し合って、理解しあうことが必要となりますが、

常にバイリンガル子育ての目標が明確にわかっているカップルなんて、そうそういないかもしれません。

またバイリンガル子育てには、まず良い「環境」が必要です。
家庭で環境を作ろうとするなら、しっかりした方針が必要となります。
そして当然、その方針の土台となる情報も必要でしょう。

でも家族や周りの環境は変化します。

ある程度、しっかりした方針があって、せっかく幼少期に母語、特に海外在住で母親が日本語で話しかけて、環境づくりもある程度問題ないと思っていたのに、

学校が始まった あるいは
引っ越しなどで環境が変化したなどにより

子どもが母語を使わなくなることは実はかなり、よくあることです。
それは、母親の努力のあるなしだけで説明できるものではないようです。(もちろん、それもありますが)

では他にどんな原因が考えられるでしょうか?

バイリンガル子育てが成功する方針の一つに、「一人一言語」の法則 があることはすでに紹介しました。

100年以上前に提唱されたといわれるこの法則には、実は研究データでは必ずしも実証されたものではないそうです。

もちろん、これでうまくいく家庭もあるので、トライする家庭も多いわけですが、「一人一言語」の法則はバイリンガル子育ての絶対条件でも、十分条件でもありません

そこで原因と考えられる状況をまとめてみました。

幼少期の日本語(母語・少数言語)との接触時間・質が十分ではなかった

こちらですでに書きましたが、バイリンガル子育てでは就学前に読み聞かせをたくさんして、しっかり母語を確立することが大事です。

ただ、家庭によって本当に事情が異なるため、何冊あるいは何時間やったらいいという基準はありません。

子どもの興味に応じて、母語で楽しい親子の時間を持つことが重要なので、要するに普通に子育てができていれば、問題はないはずです。

でも様々な事情で、それが思ったほどできないことはあります。
また思ったほどできなくても、これが母親のせいだけということは決してないはずです。

日本語を使うことや日本人に対して、社会的プレッシャーがある

一人一言語とはいえ、片方が社会的に少数派の言語(日本語)、もう一方は多数派の言語(英語など)の場合、少数派言語は不利となります。

言語にはその背後に社会や歴史があります。

パートナーやその家族の前で日本語の使用を控えなければならないとか、外に出ると日本語の使用を奇異な目で見るような差別的なプレッシャーがある場合、日本語を使い続けることが子どもにとって、逆にストレスになることもあるでしょう。

また最近は、以前よりずっとましになったと思いますが、英語圏では日本人に対する長い差別の歴史がありました。

特にアメリカと日本は戦争をした元敵国同士。

昔のことだからといっても、いろいろな個人・共同の記憶は消えません。

子ども同士の世界では、親の想像以上に大変なこともあります。

日本人であること、あるいは日本人と非日本人の夫婦の子どもということで、いやな経験をした

上と関連する事柄ですが、日本でも、海外でも、日本人であること、あるいは日本人と非日本人の夫婦の子どもということでいやな思いをする可能性はまだまだあります。

そんなとき、そういうことを気にしないでいられるか、あるいは気にしても、その経験を抱え込んだりしないようにできるサポートシステムがその子の周りにあれば、大きな変化は出ないかもしれません。

でも、大人が思うよりずっと繊細だったり、機転がきいたりするところがある子どもも多いです。

つまり、日本人としての自分というアイデンティティを維持することが辛くなる、あるいは動機がなくなる、というようなことがあるのではないでしょうか。

日本語の「勉強」が苦痛になり、必要性が感じられなくなった

「バイリンガル子育ての会」で、日英バイリンガルに育った成人の方にインタビューしたり、オンライン上の経験談を読んだりすると、ある程度バイリンガル子育てに成功した家庭のお子さんは、日本語の勉強が大変でも、日本のアニメが好きだったり、友達がいたりするため、補習校や日本語の勉強を続ける動機がありました。

日本語の必要性というのは、大好きなお母さんの言葉だから、で十分なときもあるはず。

でも日本語の場合、漢字を覚えないと本を読めるようにもなりませんし、ある程度、勉強の習慣をつけることは大事です。

つまり、日本語の勉強の「習慣づけ」ができていないと、必要が感じられなくなった時点でやめてしまうケースが出てくるのではと思います。

勉強の習慣化、サポートシステムの充実のため、近所やオンラインで、バイリンガル子育てサポートグループを探して参加することは大事だと思います。

理想的な環境のものはないかもしれません。

それでも、バイリンガル子育て仲間が集まる場所があるのとないのとでは、まったく違うと思います。

ちなみに幼少期のバイリンガル子育ての努力は無駄になるのではないか、と思う人もいるかと思いますが、どうやらそうではないようです。

こちらの研究(Nature Communicationsの論文)によると、幼少期に2つ以上の言語を聞いて育った子どもは、成長の過程で1言語しか使用しなくなっても、使わなくなった言語を聞くと脳がバイリンガル児のように反応するそうです。

実は過去10年ぐらいの脳神経学研究の進展で、バイリンガルの研究は大きく進展してきました。

でも、一般のバイリンガルへの固定観念、

例えば、両言語、どんな学齢でも完ぺきにペラペラでないと「セミリンガル」なんでしょ、というようなものは

残念ですがなかなか、なくなりません。

今後も、そのような研究の成果で日本では広く知られていないものを、できるだけ紹介していきたいと思います。

 

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