アメリカ事情

アメリカの高校ランキング(2)

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前回はアメリカの高校ランキングとは何なのか、ざっとみてみました。

そもそも、なぜそんなことを調べたのかということですが、
最近、国土が広いアメリカという国全体を考える場合、
首都ワシントン特別区もある東海岸と、地元カリフォルニア州のある西海岸では、
教育に対する考え方や実践にも、やはり違いがあるのではないか、
ということを、今更ですが感じることがあったのです。

カリフォルニアは日本にとっても地理的に近いですし、日系人・日本人やアジア系の住民も多いです。
さらにシリコンバレーもあって、経済的にも影響力が大きいことから、何かといえばカリフォルニアの動きに注目する傾向もあると思います。

新しい試みも、カリフォルニアで生まれるものも、確かに多いでしょう。

その一方、教育・福祉分野では、東海岸が発祥となっている新しい動きも実は結構、重要なのではないかと感じることがありました。

それで、やはり、このようなランキングの上位を占めるのは東海岸の高校なのだろうかと、ぼんやり思って、確認したいと思ったわけです。

80年代・米首都近くで創立のSTEMマグネットスクールの意味

最新のランキングをみてみると、一位はここ何年か不動で、Thomas Jefferson High School, 通称TJ High Schoolというマグネットスクール(公立)だということがわかりました。

(マグネットスクールについては、下で説明します。)

この高校のある学区は首都ワシントン近郊のバージニア州です。

公立高校が全米の1位というのは、もちろん理由があります。

TJ High Schoolの正式名称は、Thomas Jefferson High School for Science and Technology。

創立は1985年。

学校の公式ウェブサイトによると、公立であるものの、Governor’s School(州知事の学校)でもあり、複数企業のほか、地元の学区ならびにバージニア州も支援しており、いわゆるSTEM系の教育強化を目的として設立されたようです。

1980年代といえば、アメリカの貿易赤字が増大し、日本をはじめとする各国の経済競争が激化した時期に当たります。

教育分野ではレーガン政権時代の1983年、『危機に立つ国家』(Nation at Risk、個人的には危機に瀕する国家、あるいは危機に立たされた国家、という訳の方が好きですが)というレポートが出されたことが思い起こされます。

それまでのアメリカの教育は、地元任せで自由度が高く、もちろんそれでいい面もありました。
その一方、成人の識字率も先進国としては低く、理数系科目が国際的な指標で低いことなど、様々な問題点が指摘され、教育改革の必要性が打ち出されたのです。

TJ High Schoolはちょうどそのころ設立されたわけですから、首都ワシントンD.C.のおひざ元で、かなり気合の入ったプロジェクトとして始動したと思われます。

もちろん、そんな学校ですから希望する生徒全員が入学できるわけではなく、いわゆるGifted(ギフテッド)の子供向けの学校で、入試と、中学までの成績を参考に選抜されてきたようです。

Governor’s Schoolの定義はよくわからないのですが、各州でそのように定められた学校や、学校に準ずる教育プログラムがあり、特定の目的のために州が直接支援したり、入学試験のようなものを課すことができるようになっているようです。

話はそれますが、カリフォルニア州のGovernor’s Schoolは、夏期限定の芸術系プログラムで有名な、CSSSAです。

Giftedについても、いろいろ議論の余地があるように思うのですが、ここでは一般的にIQが高いといわれる子どもという理解で間違いではないと思います。

アメリカの高校は、普通の高校でも大学のようないわゆる単位制で、必須科目と選択科目がありますが、TJ High Schoolは理数系の選択科目の幅が広いようで、ぱっとみただけでも面白そうです。

大学レベルのクラスがそろっているというのも、単なるAPクラスがあるというだけでなく、例えばMarine Biologyも学べるというところに特色があるようです。

マグネットスクールとは

マグネットスクールというのは、アメリカにある公立学校の一種です。

アメリカでも、公立学校というのは住んでいる場所によって学区が定められていて、子供はその学区内の学校に通うというのが一般的です。

アメリカに引っ越してきて、子供を学校に通わせるためにまず必要なことは、そこに居住していることの証明として、電気・ガス料金の請求書とか、アパートの契約書などを学区の事務局に提出することです。

でも、マグネットスクールには、そのような証明をしただけでは入れません。

アメリカでは歴史的に、人種によって通える学校が区別されていた時期があり、その後「人種統合」を進めようとしてもうまくいかなかった時期もあります。

その統合を進めるための一案として、学校ごとに理数系(STEM)やアートなどの特色を出し、学区にとらわれず、様々な家庭環境の子どもを集めるという試みが、マグネットスクールです。

当然、希望者が殺到するマグネットスクールも多いようです。

その数々のマグネットスクールの中でも、TJ高校はランキングで、優れた成果を上げた学校と評価されたということです。

そのような高校でどんな教育が行われているのか、また何かわかったら紹介したいと思います。

入学基準をめぐる論争

そのような背景をみると、比較的新しい公立高校が現在、伝統ある私立高校を抑えて全米ランキング1位というのはすごいと思うと同時に、それだけ力が入れられた高校であればさもありなん、という気もします。

ただ、これだけ有名になってくるとアメリカでは問題になってくるのが、その選抜方法が「公正」なのかということ。

日本であれば、試験と成績で決めているのであれば、公正といえるのではと考えられますが、「ダイバーシティ」に敏感な多文化・多人種国家のアメリカでは、生徒の多様性が重視され、尊重されていない(周囲の多様性を反映していない)となると問題視されます。

この高校も、創立当初は白人が多かったのですが、徐々にアジア系が増加し、途中で比率が逆転。

現在ではアジア系が多数を占め、黒人やその他のマイノリティの生徒が数%にしか満たないのです。

アジア系といってもその中の多様性を考えないデータのとり方も問題だと思うのですが、とにかく昨年から、選抜方法にくじ引きにする導入するという決定が発表され、それに反対する保護者団が訴訟を起こすなど、事態は混乱しています。

アメリカではアイビー・リーグをはじめとする有名大学は私立が多く、公立とはいえ、選抜が必要な高校などは常に多様性と公正の問題に悩まされるアメリカの図式が、ここにも表れています。

まとめ

ということで、少し話がそれましたが、アメリカの高校ランキング1位は、東海岸の、首都近郊の公立高校だったのですが、近年生徒の選抜をめぐって議論が起こっており、訴訟にまで発展していることが分かりました。

まさに今のアメリカの教育とダイバーシティの問題の渦中にあるようです。

そのような問題があるとはいえ、教育内容は創設時から現在まで、素晴らしいものがあり、受け継がれてきたのだろうなと思うと、その理論と実践というか、そのエッセンスがもっと広まってくれたらいいなと思わずにはいられません。

第2、第3のTJがどんどんできてくれば、とも思うのですが、おそらく、そう簡単に同じ地域に似たような学校をつくるわけにもいかないのでしょう。

教育にはお金も時間もかかりますからね。

でも、アメリカの良いところ?は、各地にTJと全く同じではないけれど、似たような公立高校が出てきているということです。

ここで、最初に私が感じたことに戻るのですが、教育・福祉分野では、東海岸で、連邦政府や、アイビーリーグをはじめとする資金の潤沢な大学などが始めたイニシアチブが、その後全米各地に広まるというパターンも見られるということはありそうです。

だからこそ、公正さの問題について、TJで少しでも説得力のある解決の方向を示してほしいものです。

それができないなら、何のための「高いIQ」かということにもなりかねません。

 

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