少し前に「英語の早期教育にちょっとまった。」という記事が日本語で紹介されて話題になったようです。
でも、元記事と日本語の紹介記事では記事の意図するところが全く異なっています。
日本語版ではタイトルで、「第二言語の習得は10歳からの方が効率が高いことが判明」と断定しています。
元記事はこちら、英国グループの研究成果を報じた英国のメディアです。
しかし、元記事でも、元になった研究論文にも、「第二言語の習得は10歳からの方が効率が高いことが判明」したとは書いてありません。
この記事の意義は、「バイリンガルの人の脳にはバイリンガルであるために好ましい変化が見られるという研究結果があった。でも、そのバイリンガルの人たちは、幼少期からのバイリンガルだった。今回の研究で、10歳ぐらいから本格的に第二言語の習得を始めてバイリンガルになった人の脳にも、30歳ぐらいの時点で、やはり好ましい変化が見られることが分かった」ということです。
意味が全然違います。
バイリンガルの定義にも色々ありますが、以前から、二言語を日常的に操るバイリンガルの脳は、モノリンガルの脳と比べてアルツハイマーになりにくいなどの研究結果が出ています。
これらの以前の研究で対象とされたバイリンガルは、幼少期から二言語以上を習得していた人でした。
しかし、今回の英国ケント大学のグループの研究で、10歳以降に第二言語を学び、現在30歳ぐらいのバイリンガルの人を対象に脳を調べたところ、幼少期からのバイリンガルの脳と同程度の白質の変化が認められたということです。
つまり、10歳から第二言語を学んでも、バイリンガルになれるし、脳の変化も幼少期からのバイリンガルと同じような変化がある、という研究結果が出たということです。
10歳からでもバイリンガルになれる、という前向きな研究結果ではありますが、幼少期からではなく、10歳から第二言語を学んだ方が効率が良いとはどこにも書いてありません。
ちなみに、10歳ぐらいから、集中的に第二言語を学ぶのであれば、バイリンガル、バイカルチュラルになることができるという見解は、ずっと以前から提唱されています。
カナダのバイリンガル研究の大家Jim Cummins氏は、9歳ぐらいからでもバイリンガルに十分なれると主張してきました。
ただし、幼少期からのバイリンガルより時間はかかることになる。特に学習言語を第二言語で習得していくのには最低5年ぐらいかかる、という研究成果をずっと唱えてきています。
今回の英国の研究結果は、脳の変化の観点から、その主張を裏付けることになるといえます。