日本の小学校英語教育改革: アメリカの学校との違いから考える 

日本の小学校で英語に親しむ時間が全国的に導入されてから早15年。(結構長い!)

2020 年から小学校高学年で英語の授業が必修になることも決定し、具体的な方針も徐々に固まってきているようです。

日本の場合、授業内容を各先生が工夫する余地は、アメリカなどに比べればそれほど多くはありません。

それでも新教科の授業内容を一から作るというのは先生方もとても大変!です。お疲れさまです。

英語の授業時間数が増えるだけでなく、教員の日々のの負担を減らすため、夏休みを短縮するなどという話までありますが、いったいどれだけ増えるんでしょうか?

小学校高学年で英語週2時間授業導入、その効果は

文科省の発表によると、「国が定める」小学校5・6年生の英語授業時間数は週2時間。
それほど多くもありません。

しかし、ちょっと調べてみると、文科省が期待しているのは、各学校が国の規定以上に英語教育を推進することだということがわかります。

例えば、週に2時間の「正規授業」に加え、毎日朝と午後15分ずつ、正規授業で習ったことを定着させるようなアクティビティを行うことを望んでいるんだそうです。

語学は毎日やった方が効果が高いことはずーっと以前から言われていることです。異論のある人は少ないでしょう。

しかし、15分で聞き取りをやったり、発音練習をやったりしてくれといわれても、15分だけぱっと切り替えて英語モードになるのは少ししんどいような気もします。

高学年といったって小学生ですからね…

まず毎日30分、いや20分でもいいので、高学年になる前の3年生ぐらいから、やっていく方が少しは効果がありそうです。

ただ、たとえそのような努力を各学校で行っても、

最低週2時間みっちりやって、毎日15~20分程度英語の聞きとりとか発音がある。

という条件だけでは、現場の負担が大きい割には、文科省が期待するほどの効果は上がらないだろうと思います。

文科省の目標とは、「中学校の英語の授業は基本的に英語で行う」、そして高校では「討論、発表、交渉など、高度な言語活動を行う」ことです。

それを2年間、正規の週2時間プラスαの授業を2年間ぐらい終了した子供に達成できるでしょうか?

それ以前に下地のあるできる子はできる、できない子は全くできない、という2極化が心配されます。

また、授業を考えるだけでなく、評価方法などで先生方も大変な苦労を強いられそうです。

その上、英語の授業や練習時間を少し増やせば、例えば海外に出たときに英語を話す人々と対等に渡り合えるかどうかというと、それはちょっと疑問です。

結局文科省の目指しているものは、一言で言えば「実践的で高度な英語力」ではないかと思います。

でも、それって英語の発音や聞き取りを毎日20分程度、5年生からやって身につくものでしょうか?

アメリカと日本の決定的な違いは生徒の「○○が多いか少ないか」

英語圏、特にアメリカと日本の教室の決定的違いは、一言でいうと生徒の発言量の多少ではないかと思います。

言うまでもなくアメリカでは、先生が質問を投げかけると挙手する生徒がいないことはほとんどありません。

日本でもそういう教室はあるかもしれませんし、アメリカでも、挙手しても結局見当違いなことをいう子供も多いかもしれません。

でも、挙手があるかないか、ということは一見してわかります。

これはよい、悪いというよりは、単なる教育制度や社会・文化の違いともいえるものだと思います。

もうずっと前のことになりますが、私が日本のとある企業に勤めていたころ、若手社員向けに英会話教室というものがあったので参加したことがあります。

先生は当然北米出身の方で、授業では生徒の皆に向かってよく質問することがありました。

これに対し、社員の私たちの反応はというと、かなり遅く、静かでした。

英語学習に熱心、かつある程度すでに話せる、留学などの海外経験がある人が生徒でもこのような状態でした。

先生が

“What a difference.  No one raises hands here when I ask something…”

(「ほんと違うね。ここでは質問しても手があがらないね。」)

と言って、とっても感慨深げにしていたのをよく覚えています。

アメリカなどでも、先生が質問して小学校では例えばクラスの半分以上が手を上げるのが普通だったら、中学校や高校になると減ってくる、ということはもちろんあります。

でも、なんて答えよう、とか、こんなこと答えてわらわれないかな?とか、考えすぎる人はやっぱり少ない気がします。

質問されたら答える、挨拶されたら返す、これができた方がスムーズにいくのがアメリカ社会かもしれません。

特に、名前を憶えていて名前をつけて間髪を入れず挨拶を返す。これが一番印象がいい、というのが常識です。

発言力強化は日本語・英語関係ない?

人とのインターアクションの基本がそこにあって、先生も人なので、聞かれたら答える。

そのようなシンプルな基準が教室内にもあるように思えます。

日本でも、発言力を高めようと、発言の機会の多い授業は増えているかもしれません。

それは英語の発言力を高める上でとても効果があると思います。

いやむしろ、そのような日本語で発言する機会があることの方が、英語での発言力を高める上では重要かもしれません。

東大法学部を首席で卒業、ハーバードのロースクールも優秀な成績で卒業したということで有名な山口真由さんも、

「ハーバードなど米欧のロースクールは自ら発言し、その表現力が問われる『アウトプット型』。

一方、東大法など日本の大学は教授が講義しそれを聴く『インプット型』。」

「東大法でも揺らぐキャリア形成 首席女子も悩む処方箋」  (NIKKEI STYLE/出世ナビ)

と言っていますが、これはロースクールに限らず、全ての分野、全ての学年の教育でいえる日米の違いだと思います。

先生が質問したら手を上げて答えることができる子供を増やす。

先生が質問したら答える学校文化。

何も、そのようなスタイルを完全に取り入れる必要はないと思います。

そうしようと思っても逆効果かもしれません。

でも、その違いがあることを認識せず、ただ英語の授業を増やしても、日本人の発言力を高めるような効果は上がらないのではないかと思います。

では、どうすればもっと効果が上がるのでしょうか。

「空気」を読んでいては発言できない

先生の質問にぱっと答えること、あるいは教室で発言することが日本の教室で難しいとしたら、その一因には「空気を読む」プレッシャーがあるかもしれません。

読売新聞主催の「読売グローバル教育フォーラム」で、「次代のイノベーターを育むために ―「夢中」が新たな価値を創り出す―」というテーマにそって「イノベーションの芽を育む社会とは」という基調講演を行った柳沢幸雄開成中学・高校校長は、

「”空気”を読むのは日本文化のようなもの」で、日本には古来「物事の決定がその場の“空気”によって支配される」傾向があると指摘しています。

そして、近年日本のイノベーションが発展しにくかった原因の1つに、目新しいものを評価する”空気”が生まれるまでにギャップがあるからではないか述べています。

空気を読むのが苦手で海外留学という道を選んだ人も多いのではないでしょうか。

いずれにしても、一生懸命空気を読もうとすればするほど、発言しにくくなるとはいえるのではないでしょうか。

インプットが足りなければ発言できない

さらに、このサイトでも本当に使える英語力をつけるためには、「英会話」よりも他にやることがある、と強調してきましたが、「東大がオックスフォードに勝てない理由」というなかなか挑発的なタイトルの記事が最近出ていました。

ここでは苅谷剛彦氏の、日本の大学は英国の大学に比べてインプットの量が少なくても卒業できるため、アウトプットが弱いのではないかという見解を紹介しています。

刈谷氏は、大学の国際ランキングで日本の大学が上位ランクインを目指すためには、英語の授業を増やすよりも、日本独自のインプットができるような特徴を出していくべきではないかと説いています。

インプットはもちろん、学校内外の、長年の積み重ねで蓄積されるもので、ちょっとカリキュラムや時間割を変更したからどうにかなるものではありません。

でも、このインプットをどう増やしていくのか、何を発言していくのか、という視点は英語教育の議論から抜け落ちてしまうことがよくあるようです。

教育の大きな課題として、英語教育に力を入れていく上でも、置き去りにされないように注意する必要がありそうです。

もちろん、インプットがあればランキングが上がるのか、あるいはイギリスの大学がその方法で今の時代をけん引しているといえるのか、はまたちょっと疑問です。

でもアウトプットのできる人材を育てるための教育について、もっときちんと議論されてもよいのではないでしょうか。

まとめ

今回は英語の授業時間数が小学校高学年から本格的に増えることで、狙われている教育効果が上がるのかどうかについて考えてみました。

長くなったのでまとめてみると、

結論としては、授業時間数が増えるといってもそれほど劇的なものではないこと。

また、それだけでなく、狙っている教育効果に英語での発言力の向上があるとすれば、英語の時間数増ぐらいではあまり成果は期待できないかもしれない、という分析を紹介しました。

もともと教育の目的と効果なんてすぐにはあらわれないものです。

もっともっと建設的な議論がされていくことを願ってます。

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