今、幼少期からの英語学習について、様々な議論が出ています。
下の朝日新聞のオンライン記事には、バイリンガル教育で著名な中島和子トロント大学名誉教授の、早期英語教育に対する力強いサポートの言葉がみられます。
日本に住み、親が日本語のネーティブで、日本語が自然にしっかり身につく環境ならば「外国語でやりとりする時間を、ある程度なら毎日つくっても大丈夫」。日本語を土台に英語も伸びていくという。
(「子どもに英語、いくつから?」
朝日新聞Digital, Journal MOM, 2014年10月31日)
しかし、この記事と共に掲載されている、読者の幼少期からの英語学習に対する投票結果を見ると、賛成派、反対派で意見がかなりはっきりと対立してることがわかります。今まで通りで十分、という答えもかなり多いのです。
上のサイトでは、「小学校低学年まえに始めたい(ている)」に34票、「小学校低学年より後でいい」に44票、「どちらともいえない」に22票、という結果が出ていました。
幼少期からの英語学習には、まだまだ一般には積極的な人が少ない、という傾向がみえます。
一方で、熱意をもって子どもにいわゆる「早期英語教育」を行っている親や先生方も多いようです。
どうして幼少期からの英語学習に消極的、あるいは懐疑的といえるまでの結果が出てくるのでしょうか。
メリット、デメリットを挙げて論点を整理してみます。
目次
幼少期からの英語学習のメリット
まず、最大のメリットは、幼少期から英語を始めれば習得が容易、という点です。
特に発音のマスターにメリットがあります。
日本語と英語のように、発音がかなり違う場合、耳から外国語を習得することには意義があるはずです。
子どもが小さいうちに外国で生活すると、あっという間にその外国語をしゃべれるようになった、という話もよく聞きます。
そして第二のメリット、それは
・・・・
もしかして、特にない??
はい、確かにない、ですね?
というか、これが最大にして最高のメリットでしょう。
幼少期から英語をやれば英語に困らない、よーし、だったらもうちょっと積極的にやろうとなりますね?
でもそうではない、ということなのです。なぜなんでしょう?
つまり、
デメリット、あるいはデメリットと思われているものが多いあるいは大きい、
あるいは、
メリットが本当にメリットとして認識されていない。
ということになりそうです。
幼少期からの英語学習のデメリット
ではまずデメリットは何でしょうか。
- 実践が面倒である、あるいは何からやったらいいかよくわからない。
- 日本語の発達の邪魔になる。
こんなところではないでしょうか。
1.については、例えば、親が日本人同士の場合、かなりの努力が必要な感じがするからですね。
幼児期なんて普通に子育てしているだけで大変です。
保育園、幼稚園でやってくれたらまた別かもしれませんがそれこそなかなか難しい。
おまけに、実は、普通の子どもが、だいたいはそれほど苦労せずに自然に話し言葉を理解して話せるようになっているそのメカニズムというものが、あまりよくわかっていないのです。
幼児の外国語習得やバイリンガル理論も、研究は多くなされていますが、自分の子どもに当てはまるケースとして納得できるものはなかなかない。
理論的裏付けが自分にとって希薄、というわけです。
そのため、外国語学習にうまく利用できるような方法も確立されていないと思われがちです。
せいぜい、英語学習のDVDセットを購入して見せるとか、英語の「プリスクール」や英会話教室に通わせるぐらい。
でも、それも驚くほど高価だったり、近くに適当な英語プリスクールや教室がなかったり。
そこに、最大の懸念、2.のデメリット、日本語の発達の邪魔になる まで出てくるのです。
確かに、英語教育に熱心過ぎて日本語が怪しくなってしまったり、外国にしばらく滞在していたから、日本に帰ってきて子どもが言葉の問題で苦労した、などという話はよく聞きます。
でも、幼少期あるいは小学校低学年からの外国語教育は、本当に日本語の発達に悪影響を及ぼすのでしょうか。
子どもが言葉を学んでいくプロセスに関する研究成果から分かること
幼少期からの外国語学習には大きなメリット
実は、アメリカなどでは、子どもの言語獲得プロセスに関する研究が過去何十年かにわたって蓄積されていて、学校教育の現場にも生かされているところが多いのです。
教育方針も、研究結果に基づいて変化したりします。
言語獲得のプロセスについては、最近は脳科学者達も様々な研究成果を発表して一般の注目を集めています。
例えば、まだ言葉の話せない乳幼児でも言葉のまとまりが分かっているらしいこと。
そして、胎児でも、耳が聞こえるようになると言葉を聞いていて、母親の話す言葉と、それ以外の言葉を聞き分けているらしいこと。
"How Fetuses Learn" by Jane O'Brien, BBC News
"Hearing Bilingual: How Babies Sort Out Language" by Perri Klass, New York Times
さらに、幼少期から二つの言葉を同時に獲得していく、つまりバイリンガルに育つことそのものが、子どもの知的発達に悪影響を及ぼすことはない、ということ。
むしろ、よい影響があること。
"Can Preschool Children Be Taught a Second Language?" by Jeanette Vos, Early Childhood News
"How Children Learn Second Language" by Linda Halgunseth, Education.com
つまり、二人の親がそれぞれ別の言葉で話しかけても、それで子どもが混乱して言語の発達が阻害されたり、勉強が遅れることはない、ということです。
これはかなり重要なポイントです。
何十年か前は、二人の親の話す言葉が異なると子どもが混乱するとか、知能の発達に悪影響があると心配され、バイリンガル育児やバイリンガル教育そのものが、アメリカなどでも否定的にみられていた時期がありました。
現在はそのような考え方は時代遅れとなっています。
アメリカでもバイリンガル教育支持の動き
1980年代に、アメリカはカリフォルニアで、公立学校のスペイン語・英語のバイリンガル教育が事実上廃止されました。
これによってスペイン語を母語とするメキシコ系住民は大きな影響を受けました。
当時は、バイリンガル教育に対する風当たりがとても強く、EnglishOnlyなど、多文化化するアメリカ社会に抵抗するような運動が大きな支持を集めていました。
ところが、そんなアメリカでも、最近、バイリンガル教育の復活の動きがみられるようになってきました。
"Bilingual Education Could Make a Comeback" by Lillian Mongeau, EdSource
これは、上に挙げたような研究成果が社会的に受け入れられてきたことを表しているともいえるのではないでしょうか。
それでも、母語の発達、ここでは日本語の発達に影響があるのではという心配はどうしてもぬぐえないものかもしれません。