今回は、こちらに書いた
「継承日本語を育てるための5か条」
の
「妊娠中からバイリンガル環境を整える。」
についての補足記事です。
胎児の学習能力について
子どもは周りが思っているよりずっと賢いというのは映画や物語でよく見かける設定です。
とはいっても普段の生活の中で大人が子どもに接する時は、大人の方が子どもより「偉い」という上から目線になってしまうことが多いのではないでしょうか。
そこからさらにさかのぼって胎児が「学んでいる」というような主張は、なんだか疑似科学のように聞こえるかもしれません。
「モーツァルト」を聞かせると頭がよい子どもになる、などという「胎教」も、以前大いにはやりましたが、このような主張はいかにも非科学的で根拠に乏しいものでした。
実際この手の主張に関しては、科学的な根拠に乏しいどころか、そのような乳幼児向けビデオを見せることは害があることを示す研究も後に出されたり、胎児にしろ、子どもにしろ、音楽教育が頭をよくするという根拠は科学的には乏しいとも言われたりしています。
でも妊娠後期から胎児が外界の音を聞いている、というのは事実として納得できるものですし、母語とそれ以外の言語を聞き分けるエビデンスがあるというのは、これまた多くの人が納得できることなのではと思います。
(たとえ、その聞き分けるという判断の根拠が、胎児の「指しゃぶりの長さ」の違いだけだったとしても・・・)
なぜなら胎児の耳が形成され、外界の音が聞こえているとしたら、十分あり得ることだと思えるからです。
ではこれはバイリンガル子育てにどんな意味があるのでしょうか。
バイリンガル子育ては胎児から始まる
これはつまり子どもが体内にいる特に妊娠後期から、母親が意識して母語を使うこと(注:日本でバイリンガルに育てるのであれば、母親が英語が苦手でなければ英語を意識して使うこと)が重要だということを意味するのではないでしょうか。
夫婦が日本国外に住んでいてパートナーがその国の言語を話す場合、どうしても母親は外国語(あるいは夫婦共通の言語)を使う割合が多くなりがちですが、母語で絵本を読んだり、友達や家族と話したりすることは重要だと思います。
こうしておけば、子どもは生まれる前からバイリンガルの素地の素地、ぐらいの基本が出来上がるということだからです。
もちろん、生まれてきてからの努力の方が必要であることは疑いの余地もありません。
是非赤ちゃんのうちからたくさん日本語で話しかけましょう~!
「生後6か月で母語以外の発音の区別ができなくなる」とはどういうことか
一方これに関連して、バイリンガル子育てをする親にとって、ちょっと気になる研究があります。
人間の脳は思っていたより早く、生後6か月で母語に必要とされない発音を区別することができなくなってしまうということを示唆する研究です。
生後半年の間に脳の変化が起こり、例えば日本人は 「L」 と 「R」 の区別ができなくなるということです。
確かに母語で必要とされない区別は不要ですので、脳は認識しなくてよいように変化するというのは理に適っています。
もしそうだとしたら、第二、第三言語獲得のためには、そのような変化がある以前に、なるべく将来話すことができるようになりたい言語の音をできるだけインプットしなくてはならないという、なんだか大変な事態が生じます。
あるいは、ますます早期教育が加速しかねません。
しかしです。
少し冷静になってみると明らかに、もっと成長してから「L」と「R」の区別ができるようになった人は存在します。(あまりいませんが)
こんな記事もありました。
「LとR、装置で聞き分け改善 日本の研究チームが開発」
: 朝日新聞デジタル
思うに、脳はその後も「変化する」ことができる、ということではないでしょうか。
これはつまり、特に小さい時の脳の可能性というのはとてつもなく大きく、そこまで大きくしておく必要がなければ、とりあえずその可能性は一時とっておかれる、ということかもしれません。
ですから、外国語の音に子どもが早くから慣れることには大きな意味があるといえますが、だからといってそれでもっと成長してから学ぶことは大いに不利とはいえないということです。
むしろ、こちらの「臨界期仮説について」で書いたように、そして多くのバイリンガル教育の研究者が言うように、少なくとも就学前、そしてさらにできれば9歳から12歳ぐらいまでは第一言語を育てることがとても重要です。
バイリンガル子育てについては、経験談が独り歩きして、豊富な研究結果がせっかくあるのにそれにまったく基づいていない見解が広がることも多いような気がしています。
もちろん経験談はとても参考になりますが、いろいろな意見があって混乱してしまいよく分からないなどという時には、そのからんだ糸をほぐすお手伝いぐらいならできるかもしれません。
どうぞお気軽にご相談ください。