思っていたよりも大変!なことも多いバイリンガル子育て。
それにはいろいろな理由があります。
一つには、どんな社会でも2言語あるいは複数言語の力関係、つまり地位が、たいていの場合、不均衡だということが挙げられます。
今回はバイリンガルに育てる場合、L1と第二言語(L2)が家庭内外でどのようなステータスにあるか、子どもの成長段階を追って少し整理してみます。
母語は、ここでは文字通り母親の言語で、それが第一言語(L1)と考えます。
例として、英語圏に住んでいる日本語話者の親が、子どもに日本語を伝える(敬称日本語)と同時に、子どもは英語を学んでいくという場合で考えてみます。
※下の画像は20年3月、UC DavisのInternational Houseで定期的に行われている、主に米国に一時滞在している留学生・研究者などの国際家族の会、International Parent Communityで行ったバイリンガル子育てに関するワークショップのスライドの一部です。
母語育成期(0-4歳)
下の図は、子どもが0-4歳のころの、子どもを取り巻くL1とL2の状況をざっくりと示したものです。
0-4歳は子どもにとって、母親など家族と過ごすことが多い時期。
将来バイリンガルに育ってほしいと思う親にとっては、母語を育てるため、とても重要な時期です。
両親ともに子どものL1である日本語を話す場合、家の中はL1の環境に保つことを徹底しやすい時期です。
だから、家の中の言語バランスは、L1が大半で、ごく限られたテレビ・ラジオなどのメディアがL2の世界を伝えます。
パートナーがL2を話す場合は、L2の比重がもう少し多くなります。
それでも一歩、家の外に出ればL1はほとんど使われていません。
公園で行き交う子どもも、店で話し掛けてくる店員さんも、そして近所の人も皆、L2を話します。
そんな時、どんなに小さくてもいいので、母親のL1を話すコミュニティやネットワークがあると、母子にとって貴重なL1の世界となります。
ここで必要以上にL2の比重が高まると、母語のL1がなかなか伸びなくなることもあります。
かといって、L2を話す人と全く接触しないのは不自然ですし、L2が育つ機会をうばってしまうことにもなります。
パートナーが日本語話者であれば、ベビーシッターやママ友などを通じてL2を話す人と交流することで、子どもは親も、自分も両方の言語の世界とつながっていることを少しずつ、学んでいきます。
バイリンガル形成期(4-13歳)
4歳以降は、プリスクールや幼稚園が始まり、L2の世界が大きく広がります。
特に5歳以降は義務教育が開始するところも多く、L2の比重が一挙に高まることもあります。
また、子どもの性格や家庭の状況によって、L1とL2にも様々なバランスがみられるようになります。
バイリンガルの親は、どちらが遅れていても不安になるものですが、大きく構えていれば大抵は、解決していきます。
常に両言語のバランスや強さが「完璧」な子どもなど、ほとんどいないからです。
ただ、以下の図をみれば、学齢期以降ずっとこの状態が続けば、L1の維持は難しくなり、L2が主要言語になっていくことは容易に想像できると思います。
L1の世界が非常に限られており、子どもにとっても親にとってもL2の世界の方が比重が高いことが一目瞭然です。
そこで子どものL1の世界を維持するために、日本語学校や補習校など、L1の仲間がいる場所が重要になってきます。
両親が日本人である場合でも、L1を育てるためには、意識して話し言葉以上の語彙を使う場を作り出していくことが大事になることが多いです。
※「ゆりかご」、「遊び友達」、「学齢期」の年齢での分け方は 「バイリンガル教育の方法-12歳までに親と教師ができること」(中島和子著)を参照。
母語の重要性
このモデルは単純化したもので、各家庭によって事情は様々です。
どのようなモデルであればバイリンガル子育てが「成功」するというような 方程式 はありません。
でも、L2が社会のマジョリティの言語で、L1の「地位」が低い場合は特に、L1を大事に育て、その土台の上にL2を加えていくことが、バイリンガルの子どもの言語発達に重要であることは、多くの研究で裏付けられています。
このあたりについては、以下の記事などもご参照ください。