バイリンガルに育てるために必要な「条件」と「努力」とは?
条件さえ整っていれば、子供がバイリンガルに育つのは結構簡単、と思っている人は多いと思います。
その条件は様々でしょう。
例えば、
海外駐在など、親の都合で子供が一定期間、英語圏で生活したことがある、とか、たまたま、近所に評判の良い英会話教室があって小さいころから通っている、とか。
あるいは、日本人家庭だけれど、親の仕事でアメリカなどに永住しているとか。
さらに、片親が日本語、もう片親が日本語以外の言語を話す家庭であるとか。
などなどのパターンが考えられるかもしれません。
でも、バイリンガルに育つに適したと考えられる、上のような条件をたまたま持っている、あるいは持ったことのある家庭ならおわかりと思いますが、バイリンガル子育てに 簡単 とか 当たり前 は決してありえません。
ちょっと考えてみれば、どんな子育てでも――1言語で育てていても、そうでなくても――チャレンジの連続、ということは誰でもわかると思います。
(そんなそぶりは見せず、余裕のある子育てができている方もいるかもしれませんが、それはむしろ例外なのではと思います・・・)
それに加えて、駐在でも永住でも、言葉も完璧にはわからない、慣れない地域に家族で引っ越し、2言語で子供が教育を受けたり生活していくというのは、大変なことの連続です。
両親がそれぞれ別の言語を話す家庭は、バイリンガルに育てるのに理想的と思われるかもしれません。
それでも、両親がコミュニケーションに使う言葉というのはどちらか1つの言語である場合が多いですし、また、家庭内の言葉が外の社会でも使われているのか、そうでないのか、によってもバイリンガルの発達への影響は多少なりともあるものです。
もちろん、条件があり、かつ両方の言語を伸ばそうと頑張れば、両方の言語とも同じように堪能になることは十分ありますが、努力なくして簡単にそうなるわけではありません。
環境を整える
ではその努力とは一体、どんなものでしょう。
努力にも色々ありますが、ざっくりと2つの条件に対する努力がある、と考えると分かりやすいのではないかと思います。
そして、2つの条件を普段から意識しているひとは、あまりいないのではないかと思います。
その第1の条件は、環境を整えることです。
これは当然と思う方も多いと思います。
それなくしてバイリンガル子育てをやってみようなんて思う人はあまりいませんよね。
実際、子供を高度なバイリンガルに育てるために適した、理想的な条件というのはいくつか考えられます。
1. 子供が2言語に触れていて、2言語を使用して遊んだり、学習したりする時間を完全に半分ずつにできる。
この条件は、机上の空論に近いものではあります。
例えば、月曜から木曜までは英語の学校、遊ぶ友達も家でも英語ネイティブの環境で、週末にかけての金曜から日曜までは日本語で学習も遊びもする。
あるいは学校を2期制とすると、前期は英語の学校で後期は日本語の学校にする。
ということは考えられなくはないですが、どちらも実践できる環境を整えるのはとても難しいと思います。
2. 子供の基礎的教育が終わる15歳前後の期間全体で考えて、2言語でバランスよく学習したり、遊んだりする機会を提供できるようにする。
これも、計画して実行することはなかなか難しいと思います。
たまたま、子供が9~10歳ぐらいまで日本で生活していて、その後引っ越していきなり英語圏で英語漬けの生活になる、というパターンはないことはないですが、例えば親の一存でそれが実行できるかというと、なかなかできません。
実は、上に挙げた2つのモデル環境、特に2つめの環境は、バイリンガル教育の分野でもバランスのとれたバイリンガルに育つ好条件の1つとして知られています。
いわゆる、「低学年の時期は母語でしっかり教育する」のがよい、という理論です。
ただ、バイリンガルに育つためには、その後、2番目の言語に「どっぷり」漬かる必要があります。
もちろん、母語の教育が大切というのは強調されてもされすぎることはありません。それぐらい重要です。
でも、バイリンガルになるためには、その後の どっぷり 別の言語を使う環境も必要で、それがない場合は、2番目の言語(外国語)をマスターするのは大変です。
とはいえ、上のような2つのモデル環境があることが分かっていて、それを意識しながら2つの言語を習得するための環境を整える努力をすることは十分可能です。
2言語に対する親の意識や態度
環境を整える条件に対する努力と比較すると見落とされがちなのが、 親の2つの言語・言語環境に対する意識や態度の重要性 ではないかと思います。
例えば英語圏で子供を 日本語と英語 のバイリンガルに育てる場合で、片親、あるいは両親が
日本語ができなくてもよいと思っている、
あるいは
英語は後から勉強すればよいと思っている、
などの場合です。
例え片親でも、バイリンガルに育てる環境を整えることが大事だということに賛成していなければ、それは子供に伝わる機会がやがて訪れます。
子どもは敏感に、親の思っていることが分かるものです。
そうした時、子供はやる気をそがれることになるかもしれません。
日英バイリンガル教育研究のパイオニアといえる中島和子氏は、英語圏で英語を話す父親が、母子の会話が日本語で自分はそこに入っていけず、疎外感を覚えてしまうときでも、父親がゆったり構えて、自分は待てるという態度でいられるというような、バイリンガル子育てが両親の目標となっていることが重要だと指摘しています。
その例として、以下のような話をしています。
全く日本語が分からないアメリカ人の父親が居ました。母親が子供が小さいうちから日本語で熱心に話し掛けていたために、子供の日本語の力が英語より強くなり、父親が親子の会話に入れなくなってしまいがちだったのですが、この父親は「僕はあと2、3年我慢するよ」と言ったそうです。つまり、子供が学齢期に入ると、あっという間に英語が強くなることを分かっていたわけです。
―「バイリンガル子育てのポイント」 FranceNewsDigest より
それだけでなく、英語圏に滞在している家庭でも、例えば母親が、英語があまりできない場合に自分を卑下しすぎたり、英語ができる日本人を必要以上にほめたたえたりすると、子供は英語ができればいいというメッセージを受け取ってしまうこともあります。
言語は、単なるツールではありますが、それと同時に社会的なものです。
国際社会で有効とされる言語とそうでない言語というった、世界の中での位置づけというものはあり、子供は敏感にそれを感じ取ります。
世界には何千もの言語があり、それぞれに価値のある、大事な遺産(heritage)です。
そこをしっかりと子供に伝えないまま、英語ができるといい、という価値観を子供に伝えてしまうと、日本語の大切さが伝わらないことにもなりかねません。
特にバイリンガル子育てでは、言語に対する親の意識や態度が子供にどう伝わるかを考えることも必要ではないかと思います。
・・・と、色々書きましたが、バイリンガル子育ては努力しないといけないとか、努力が必要なんだから簡単ではないから覚悟がない人はやめておけとか、そういったことを言っているのではありません。
また、親が努力しすぎても子育てはうまくいかないこともあるというのもありますので、努力したら絶対確実にできると言っているわけでもありません。
当たり前のことですが、親は環境をある程度整えることはできる。
あるいは、たまたまそのような理想の環境を整えることは可能な条件にある家庭はある。
そして、その上で少し意識して、努力も重ねていけば、もっとバランスの取れた英語・日本語のバイリンガル(もちろんいろいろなレベルがあるでしょう)に育っていく可能性は高いはずです。
子どもの能力って、本当に無限です。
ですから、努力はとにかく大変だからと、バイリンガルに育てることを最初から諦めてしまうのは、非常にもったいないと思います。